「暑熱順化」
(暑熱”馴化”とも書くようですが、以降、一般的な”順化”を用います)
この時期よく聞くワードですよね。…って既に7月も中盤なので正直このテーマ、”出遅れ感”は否めませんが、自分自身が、ここ最近暑い中運動をしては「暑熱順化、暑熱順化」と言っているので、まだテーマとしても賞味期限切れではなかろうという判断のもと、取り上げることにしました。
というか自分自身の暑熱順化に対する理解が浅くて、なんとなく言葉だけ突っ走っている感じなので、この機会にいろいろと調べてみたくなりました。
お付き合いください。
暑熱順化に対する誤ったイメージ(僕の話)
これは僕自身の話ですが、「暑熱順化」と聞いてまずイメージしたのは、「太陽がサンサンと降り注ぐクソ暑いとても暑い日中に外に出て運動をすること」というものでした^^;
結論からいうと、これは合っているようで間違っています。
上記は、「日光浴」であって「暑熱順化」ではありません。単に、「日差しを浴びること」は暑熱順化にはならないんですね。そもそもの目的が違います。
日光浴の目的は「タンニング(日焼け)」だと思いますが、暑熱順化の目的は「体温調節機能を向上させること」です。
”合っているようで”と書いたのは、日光浴もそれはそれで発汗を促す行為(=体温調節機能を向上させる行為)ではありますが、効果としてはいまいちなためです。
暑熱順化ができていないとこうなる(ランナーの場合)
暑熱順化ができていなかった場合にどうなるか、ランナーにとってわかりやすい例として下記を挙げてみます。
今年僕が参戦したロングレースの「完走率」です。
異常気象の前兆なのか、四季の境目が一昔前からまるっきり変わってしまった感がありますが、下記2つのレースにおいてもまさに「季節外れの猛暑」に見舞われ、多くのランナーがDNF(Did Not Finish)となりました。完走率がガクッと下がりました。
- 富士五湖118㎞(4月) 最高気温27度(例年は14~15度)→ 完走率50%(前年60%)
- スパトレイル72㎞(6月) 最高気温29度(例年は24~25度)→ 完走率52%(前年77%)
10~25ポイントも完走率が下がっていますね…。春から初夏にかけては、”突然暑い”みたいなことがよくあるので、レース当日の暑さによって完走率が激しく変動します。
富士五湖のときの最高気温はまさに”異常”ですね…。よく完走したもんだわ。お蔭さまで、完走したとはいえ、中盤以降一気にバテて、目標タイムに遠く及ばないフィニッシュ制限ギリギリのひやひやレースとなりました^^;
富士五湖の完走率の低下度合いがスパトレイルよりも小さいのは、118㎞に挑戦するような変態屈強なランナーが多いことと、暑かったとはいえ湿度が6月に比べたらまだマシだったことなどが関係しているのかもしれません。(とはいえ暑すぎた。)
いずれにしろ、暑熱順化ができていない状態で「いきなりの暑さ」がくると、体は熱を放散できなくなり、結果、熱中症気味になってDNF(Did Not Finish)と相成るわけです。
暑いとカラダはどうなるか
ここまでは前段の話。ここからが本題です。
まずは暑熱順化を理解するにあたって、「暑いとカラダがどうなるか」を押さえておきます。
夏場の炎天下においては、涼しい環境に比べると当然、持久性の運動能力は低下します。運動時に筋肉が発する熱に加え、体外からも熱が侵入してきます(太陽熱や地熱です)。
人の平均体温はだいたい36度ぐらいだと思いますが、体の深部体温はもう少し高く「37度前後」に保たれているそうです。
体の内外から発生した熱が蓄積することによって、この深部体温が上昇していき疲労困憊といった状態になり、最終的に動けなくなります。
これがいわゆる「熱中症」の状態。
で、こうならないために人に備えられているのが「熱放散機能」というわけです。発汗などによってカラダの熱を下げる機能ですね。
結論を先に書いちゃいますが、この「放熱機能を高める」ことが「暑熱順化」ということになります。
熱放散機能は「2種類」ある
先に少し触れましたが、人には体温が上昇しすぎるのを防ぐために「熱放散機能」が備わっています。
一つは誰もが思い浮かぶ「発汗機能(反応)」。そして、もう一つは「皮膚血流機能(反応)」というもの。
※ちなみに熱放散には順番があり、①皮膚血流反応→②発汗反応、の順で行われます。
皮膚血流機能(反応)
皮膚の血管を拡張させ血流を増やすことで、皮膚の表面から熱が体外へ放出されることを促す機能。多量の体熱が、体内から血液にのって皮膚に移行していく。
血液とは優秀なもので、いろいろなものを全身に運んでいますが、まさか熱を乗っけて体温調節の役目まで果たしていたとは驚きです。
発汗機能(反応)
皮膚血流反応だけでは熱を逃がすことができなくなると、次に「発汗」が始まる。汗が蒸発するときの気化熱により熱放散を行う。
こちらは常識ですね。ここでの発見は、「発汗」の前にもう一段「皮膚血流機能」というステップがあったということですかね。ふむふむ。
暑熱順化とは「熱放散機能を高める」こと
これら「熱放散機能」は鍛えることで、その機能が向上していきます。
よくいう「暑さに慣らす」とは、言い換えると「熱放散機能を高める」ということになります。
普段から暑さにカラダを慣らすことで体温の放散がうまくいくようになり、暑さに順応できる(体温調節ができる)カラダになります。これが「暑熱順化」です。
では、「暑熱順化」ができたかどうかはどうすればわかるのか、ですが、暑熱順化によって体に2つの変化が起きてきます。
一つは「汗のかき方」の変化、もう一つは「汗の質」の変化、です。
それぞれ解説します。
変化①「汗のかき方」
暑熱順化ができると、多少の暑さであれば、汗をかくまでもなく熱放散ができるようになります。つまり、熱放散機能のファーストステップである「皮膚血流反応」のみで熱放散が完了するという状態。
まぁ運動時は確実に汗をかくので、これは普段の日常生活における話ですね。夏の日中にちょこっとお出かけしてるぐらいじゃ汗なんてかかなくても全然涼しいですよー、というイメージ。
ちなみに「皮膚血流反応だけでは熱放散が間に合わない!」と判断した場合は、①早いタイミングで ②多くの汗をかけるようになります。つまり、効率的に熱放散ができるカラダに変化していくというわけ。
変化②「汗の質」
2つ目の変化は「汗の質」です。
わかりやすくいうと、暑熱順化ができると「サラサラした汗」に質が変化します。
久々に運動したりするとなんだか「ベタベタした汗」をかくことがありますが、あれは水分と一緒にナトリウムなどの体に必要な成分も一緒に排出してしまっている状態。
「サラサラした汗」とは、汗腺の働きが良くなることで、汗が体外へ出る前にナトリウムなどを体内へ再吸収できている状態になります。
そのため滝汗多量の汗をかいても、適切な水分補給をすることで体液のバランスが回復しやすい状態になります。つまり、暑熱順化ができている状態だと、脱水症状や熱中症のリスクを下げられるというわけです。
汗をかきやすい人・かきにくい人 それぞれの暑熱順化
「汗をかきやすい人」がいる一方、「汗をかきにくい人」っていますよね?
普段から運動習慣がある人は、すでに汗をかきやすい体質になっていると思いますが、ランニングを始めたばかりなどの人は、いまはまだ、汗をかきにくい体質かもしれません。
当然ですが、
汗をかきやすい人 → 放熱しやすい体質
汗をかきにくい人 → 放熱しにくい体質(熱がこもりやすい)
ということです。
「暑熱順化」と一口にいっても、それぞれの人の状態・レベルにより、暑熱順化で目指すべきレベルが異なります。具体的にはそれぞれ下記の状態を目指すことが目的になります。
汗をかきやすい人 → 「汗の質」を変化させること
汗をかきにくい人 → 「汗をかきやすいカラダ」に変化させること
まぁ結論、やることは同じなのですが笑、”意識”として持っておくとよいと思います。
※ちなみに、人の皮膚には「汗腺」が全部で300万個程あるそうですが、そのすべてが活動しているわけではなく、活動している汗腺(=能動汗腺)は230万個程だそうです。幼少期にどれだけ汗をかくような活動をしたかによって能動汗腺の数は決まってしまい、以降増えません。かなりの個人差が出るそうです。
暑熱順化の方法
暑熱順化の具体的な方法をいくつかご紹介していきます。特段目新しいものはなく、意識すべきは普段の生活のなかで「汗をかく」ことです。
運動(有酸素運動)
まずは当然「運動」です。前述の通り、「汗をかくこと」自体が暑熱順化には必要なことなので、別に晴れている日に運動をする必要はありません。無理して、直射日光下でいきなり運動すると、暑熱順化どころか熱中症で倒れて、本末転倒です(笑)
極端な話、寒い季節や朝夕の涼しい時間帯であっても、ウェアを着込んで発汗を促せば、それは暑熱順化にとって効果的です。暑熱順化を目的とするならば、サウナスーツもありってことです(水分補給はしっかりしましょう)。
入浴
運動習慣がない人にとっては、このあたりから始めるのがいいかもしれませんね。
シャワーだけで終わらせず、しっかりと毎日お風呂に入り、発汗を促す。
僕は家では入浴習慣がないので(ランニング後の銭湯はよくいきます)これの効果が如何ほどかは正直懐疑的です(笑)暑さに強いランナーと入浴習慣の相関関係は気になりますね。どなたか「毎日風呂に浸かってたら夏とかもう全然余裕っすよ」って方がいたら、是非教えてください。
サウナ
サウナも当然効果があります。夏本番が始まる前に「サウナ週間」をつくってみたらけっこう効果あるかも!?
上記のように、「汗をかく」という行為は「運動」と「それ以外」とに分かれますが、運動した方が汗をかきやすいので、早く暑熱順化するには運動のほうが効果的なのはいうまでもなしです。
大事なのは「続けること」。間があくと効果が出ません。
暑熱順化はちゃんと続けた場合、「10日程」で効果が表れるようなので、「暑熱順化強化月間」を作って一気に体を慣らしてしまうのがいいかもしれません。(水分補給は忘れずに!)
海外トレイルレースを目指す人の暑熱順化対策
最後に、トレイルランナー的な視点でひとつ書いておきたいことがあります。
僕自身がそうなのですが、今後「海外トレイルレース」にも参加したいなーと思っています。もちろん最終目標はUTMB(ヨーロッパ)なのですが、それには、長期休暇の取得や遠征費用、そもそも抽選に当たらないといけない、など多くのハードルがあるのも事実。
となると、自然と候補として挙がってくるのは、近隣アジアのトレイルレースです。具体的には香港、韓国、台湾など。実はどの国も、トレランはけっこう人気で多くの大会が開催されています。
これらの国の、ある程度名の通ったレースに参加する場合、時期的には12~3月頃になることが多そうなのですが、日本では冬のこの時期、向こうでは20度ぐらいだったりするわけです(もちろん一概には言えません)。
つまり、日本では冬だけど暑熱順化をしておかないと、せっかく海外まできたのに、まさかの熱中症でDNF…という悲しい結果になりかねません。
何が言いたいかというと、今後海外を狙っている人は「冬でも暑熱順化をする必要がある」ということを頭の隅っこに置いておいていただきたいということ。
具体的には、サウナに入るとか、ホットヨガに通う、とかでしょうか(笑)真冬は外をランニングしてもそこまで大量に汗はかけませんからね。
長くなりましたが、暑熱順化についての調査は以上!
早いとこ暑熱順化を済まして、夏も元気に走りまくりましょー!
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