昨年末、世界遺産「熊野古道」を歩いてきた。
山に詳しくない人でも名前ぐらいは聞いたことがあるだろう。
今さら年末のレポート?と思うかもしれないが、熊野古道に関しては時期とかタイミングとか関係なしに「歩いた証」を残しておきたかったので書くことにした。(実際は1月頭に書き始めていたのだけど、諸々に忙殺されて後回し状態になっておりました。)
結論からいうと、とても良かった。
これでは語彙力が低すぎるだろうか。いや、「本当に良かったもの」はあーだこーだ形容せずに、最終的には「シンプル」な言葉に行き着くもの。
今回歩いたのは「小辺路(こへち)」だが、シンプルに「とても良かった」。
とはいえ、僕も自称物書きの端くれ。もう少し自分なりの言葉で感じたことを綴っておこうと思う。(結局あーだこーだ書くんかい)
ちなみに今回はレースレポではないので、至極個人的なエモい感じは最初のほうだけで、あとは、今後熊野古道に行ってみたい人に向けた「お役立ち情報」もちょこっとまとめました。ちょこっとですがw
では、熊野古道小辺路の旅をどうぞご堪能くださいませ〜。
【総括】歴史(古道)に身を委ねることの充足感
まずは冒頭の「とても良かった」の続きから。
総括というか、感じたことを率直に綴っておく。(つまり、エモめ)
山旅というのは、1日目より2日目、2日目より3日目のほうが、深みが増す。後半になればなるほど体が山に馴染んできて、自分が「山と一体になっていく」ことを感じる。
これはおそらく、体の疲労と比例して余計なことを考える余裕がなくなり(つまり”邪念”がなくなり)、自分との対話(内省)が始まるからだと思っている。心が裸になって、ダイレクトに山や自然を感じるのだと思う。
今回の熊野古道もご多分に漏れずこの感覚になったのだけど、今回はこれに加えて、タイムスリップしていくような感覚も味わった。さすが古道だ。
後述するが、小辺路の前半は「古道感」はほぼない。
車が普通に通るロードを長いこと歩く。昔はもちろん山道だったのだろうが、今はそこに立派な道路があった。これはもうどうしようもない。
小辺路の本領発揮は後半からだった。後半からは一気に「古道感」が増す。
道中に出てくる石仏や茶屋跡、苔むした石畳。
何も感じようとしなければ、ただの山道なのだが、昔ここを歩いた人に想いを馳せれば馳せるほど、道を味わえば味わうほど、想像力を膨らませれば膨らますほどに、どんどんと熊野古道に惹かれていった。
高野山から熊野に至るまでに歩いた距離はせいぜい60km程度。これはいつもの山行とたいして変わらない。
でも、大きな峠を越えながら、山あいの宿場町に降り立っては少しの安息を挟み、また次の峠を越えていく。これを3回繰り返し、最後に本宮大社のある熊野に降り立ったときの「安堵した気持ち」と「充実感」はこれまでにないものだった。
山猿家は歩くのが速いので60kmを2日間で歩いたが、昔の人はもっともっと時間が掛かったことはいうまでもない。さぞかし険しい道だったと思う。だからきっと、熊野に到着したときの「安堵感」は現代の比ではない。
僕が感じた安堵感と昔の人が感じたそれとでは程度の差はあれど、「あぁ、昔の人も最後はこんな気持ちになったのかなー」と、最後はなんだかとても満たされた気持ちになった。
この充足感はいったい何なのだろう。うまく言葉で表現できないのだが、なんだかとても満たされたのだ。
充実した山歩きだった。
これが、「とても良かった」という言葉を丁寧に紐解いてみた感情です。
全然シンプルじゃないじゃん。
【基礎知識】「熊野古道」とは
エモい文章はここまでにして、ここからはサクサクと情報共有をしていく。
まずは熊野古道の基礎知識から。
熊野古道のすべての道は「熊野本宮大社」に繋がる
熊野古道は、熊野三山(熊野本宮大社、熊野速玉大社、熊野那智大社)への参詣道(さんけいみち/霊場を結ぶ道)として、古代から中世にかけて多くの人々が歩いた道。
熊野古道とはいってもルートは一つではなく、下記マップの通り複数ある。
- 田辺から熊野本宮に向かう「中辺路(なかへち)」
- 田辺から海岸線沿いに熊野那智大社・熊野速玉大社(通称”新宮(にいみや)”)へ向かう「大辺路(おおへち)」
- 高野山から熊野本宮へ向かう「小辺路(こへち)」
- 熊野古道最難関ルートとされる「大峯奥駈道(おおみねおくがけみち)」
- 伊勢神宮と熊野三山を繋ぐ総距離170kmに及ぶ「伊勢路(いせじ)」
など。
そして、これらすべての道が「熊野本宮大社」という”聖地”に繋がっている。
平安時代から鎌倉時代にかけての”熊野信仰”は厚く、身分や階級を問わず、多くの人々が熊野大社を目指した。その数の多さを形容して「蟻の熊野詣」と言われたそうな。
ちなみに大峯奥駈道には、いまなお「女人禁制」の山があり、その掟は現在も守られている。それほどに厳しい修験道だったということだろうか。
熊野古道の名がここまで知れ渡っているのは世界遺産に登録されているからに他ならない。2004年7月にユネスコの世界遺産に登録された。
「道の世界遺産」は世界に2つしかない(以下)のだが、その一つに選ばれているのは、日本としてなんとも誇らしい。
- 「熊野古道」(登録名は「紀伊山地の霊場と参詣道」)
- 「サンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼路」(フランスとスペインに跨る820kmの道)
海外のロングトレイルも、いつか歩きたいものだ(いや、そのうち歩くけど)。
小辺路は歩きやすいが、決して楽ではない
今回歩いた「小辺路(こへち)」は、高野山から熊野本宮大社を結ぶ、熊野古道の中でも「比較的歩きやすい道」とされている。
実際今回歩いてみて「うむ、確かに全般的に歩きやすい。」とは感じた。
前半はロードや林道が大半なので普通に歩きやすいし、後半になって”古道感”が濃くなってきてからも、トレイルは危険箇所もほぼなく、サーフェスもなだらかでガレ場も少なく、基本歩きやすい。
さすが、遥か昔から多くの人が歩いた道だ。人が歩くと道ができるのだな、と感じた。
ただ、歩きやすいとはいっても、そこは熊野古道。800〜1,000mほどの高低差がある峠を3つ(伯母子峠、三浦峠、果無峠)越えていくので、決して甘くはない。
僕らはほぼ2日で歩いたが、通常は4泊5日の工程を組むことが普通の模様。決して楽な道ではないので、しっかりとした準備と計画のもとに臨むべし。
総括すると、完全初級者向けではなく「中上級者のためのロングトレイル入門編」といったところ。
高低図やルートなどの詳細は後述するので、参考としてください。
【行動実績】CT比 約50%で所要3日
今回の僕らの行動実績は以下の通り。赤が実績。
DAY | 出発地 | 目的地 | 距離(ヤマレコ) | コースタイム | 距離(実績) | 時間(実績) | CT比 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
DAY1 | 極楽橋駅 | 萱小屋跡避難小屋 | 23.5km | 13時間 | 24.6km | 6時間19分 | 48.7% |
DAY2 | 萱小屋跡避難小屋 | 道の駅奥熊野古道ほんぐう | 40.6km | 24時間16分 | 42.8km | 12時間20分 | 50.5% |
DAY3 | 道の駅奥熊野古道ほんぐう | 湯の峰温泉 | 6.2km | 3時間4分 | 7.3km | 3時間21分 | 104.1% |
初日は、東京始発の当日現地入りでスタートが11時過ぎだったこともあり、行動時間は短め。その分、DAY2は40km越えのロングコースとなった。3日目はほぼ観光。
山歩きのメインはDAY1とDAY2だが(3日目も軽めにひと山は越えたけど)、いずれもCT(コースタイム)比で約5割。
この「CT比5割」というのは、正直特段速いわけではなく、一切走らずにひたすら歩いてこのペース。いわゆる「早歩き」だ。
先述の通り、道は基本歩きやすいのでスタスタ進める。(ただ山猿家の場合、登りのペースがちょいと速め(ペースが落ちない)なのと、休憩時間が短い、というのはあるw)
何が言いたいかというと、トレランとかを少しかじってて長時間行動に慣れていれば、全然2日で行けるよ、ということ。
三連休があったら、是非チャレンジしてください。(3日目は夜行で帰ったので、山歩きフィニッシュ後は温泉とご飯もたっぷり満喫しました。)
【お役立ち】 移動&宿情報
ここでは、移動と宿について、情報を置いておきます。
DAY1 往路(東京→極楽橋)
東京から当日入りで行けます。所要4時間半。途中新大阪でたこ焼きを食べる時間はありません。
東京6:00始発→極楽橋10:31着
乗換回数:2回(新大阪、なんば)
総額:16,140円
距離:623.8km
■東京(のぞみ)
| 06:00-08:22[142分]
| 8,910円( 指定席 6,010円 )
◇新大阪
| 大阪メトロ御堂筋線
| 08:33-08:49[16分]
| 290円
◇なんば
| 南海高野線快速急行
| 09:01-10:31[90分]
| 930円
■極楽橋
DAY1 宿「萱小屋跡避難小屋」
DAY1は「萱小屋跡避難小屋」に宿泊しました。
外にテント張ってもよかったけど、時期も時期だし(年末)、避難小屋利用者は他に誰もおらず貸切だったので、迷わず小屋泊を選択w
ここは今でこそ避難小屋になっていますが、昔は茶屋だった模様。小屋には囲炉裏があったのだけど、昔はこの囲炉裏で客人を暖かくおもてなししていたんだろうか。
DAY2 宿「ゲストハウスはてなし」
DAY2は安心安全のゲストハウス泊w 最高。(最近、2日連続で極寒テント泊とか辛いw)。
泊まったのは「ゲストハウスはてなし」。お風呂あり、キッチンあり、ダイニングあり。とても快適でした。
ゲストハウスは道の駅奥熊野ほんぐうのすぐ裏手にあるので、食事の調達は道の駅で。(道の駅は18:30閉店なのでそこだけ注意)
DAY3 温泉「湯の峯温泉」
旅の締めはなんといっても温泉でしょう。
熊野本宮大社を満喫したあとは、小一時間ほどかけて一山超えて「湯の峯温泉」へ。
山を降りていくと徐々に硫黄の匂いが。到着したのは小さな宿場町。うむ、なんだかとても落ち着く。ここでは温泉入るぐらいしかやることないのだけど、唯一「セルフ温泉卵」は楽しめました。
肝心の温泉は「公衆浴場」を利用。湯の峯温泉のほぼ中心部に公衆浴場があります。そこで3日間の旅の疲れを癒す(まぁ前日もゲストハウスでお風呂入ったけど)。
公衆浴場の目の前の通りにバス停があるので、そこから「紀伊田辺駅方面」に乗車。1時間半ぐらい乗ったかな。
田辺駅からは、田辺駅発の夜行バスを取っていたので、それで新宿まで。
夜行バスが来るまでの時間は駅前の居酒屋で乾杯。(年末ということもあり居酒屋はどこもほぼ満席。入れるお店探すのに30分ぐらい掛かったw)
【ログ置き場】思い出ギャラリー
ここからはインスタに投稿したログと、載せられなかった写真を思い出として置いておく。自己満項目。
写真はコメント入れようと思ったけど、たくさんあってめんどくさくなったので、なんとなく雰囲気だけ感じてもらえればw
あ、途中アライグマがいます🐻 こいつはかわいいぞ。(最初たぬきかと思ってたけど、複数名の方から「アライグマですね」と修正いただきましたw)
DAY1
【コース】
極楽橋駅(10:45)〜弁天岳〜大門〜金剛峯寺〜薄峠〜水ヶ峰〜タイノ原林道〜萱小屋跡避難小屋(17:05)
距 離 : 24.6km
行動時間 : 6時間19分
移動時間 : 5時間21分
上 昇 : 1476m
平均スピード : 15:24km/h
消費カロリー : 1885kcal
宿 泊 : 萱小屋跡避難小屋
DAY2
【コース】
道の駅奥熊野古道ほんぐう(8:30)〜熊野本宮大社〜大日越〜(中辺路)〜湯の峰温泉(12:00)
距 離 : 7.3km
行動時間 : 3時間21分
移動時間 : 1時間31分
上 昇 : 419m
平均スピード : 12:30km/h
消費カロリー : 711kcal
宿 泊 : ゲストハウスはてなし
DAY3
【コース】
道の駅奥熊野古道ほんぐう(8:30)〜熊野本宮大社〜大日越〜(中辺路)〜湯の峰温泉(12:00)
距 離 : 7.3km
行動時間 : 3時間21分
移動時間 : 1時間31分
上 昇 : 419m
平均スピード : 12:30km/h
消費カロリー : 711kcal
うむ、見返してみても、なかなか楽しい旅だったな。
【まとめ】「一歩一歩。」
実は熊野古道を歩くのはこの時が初めてではなく、2023年5月にも歩いている。
その時は、熊野古道の中で最も険しいとされる「大峯奥駈道」の一部を歩いた。ただ、今思うと、歩いたのは本当に一部分で、大峯奥駈道全長170kmのうち、わずか30km程度。
ルートの最高峰である八経ヶ岳を越えるルートだったので「山越え」という意味では一つの核心部であったかもしれないが、大峯奥駈道は一部分をちょろっとなめたぐらいで語っていいような甘いものではなく、「170kmを歩いていくこと」こそが核心であると思う。
なので、ルートは違えど、今回は小辺路をすべて歩き切り、ようやく一本「熊野古道を歩いた」と言える。
ちなみにこちら↓が2023年5月に大峯奥駈道を一部歩いた時のpost。なんとも緩い。
いずれにしても、やっぱり、山旅はいい。最高だ。
僕の中では山旅にも2種類あって、一つはひたすら山道をいきテント泊で繋いでいくエクストリームなパターン。もう一つは、山に登っては里に降りて…を繰り返しながら進んでいくパターン。途中途中の山は険しいこともあるだろうが、山→里→山→里、と進む。
どちらにも良さがあるが、より”旅感”を感じられるのは、やはり後者だろう。
後者の場合は、文字通り、「人里離れた」山中から「人のぬくもりを感じる」宿場町に降りる。その度に感じる、“ほっと一息”つける安堵感がなんとも堪らない。
そこで、うまい飯を食べ、温泉に浸かり、宿の人と会話し、他の旅人と会話し、笑顔になる。そうして疲れを癒し、英気を養い、また次の山へと向かう。
その時の旅人の表情や感情は、今も昔もきっと全然変わらないと思うのだ。
そして里に降りたときに限らず、山を歩いているときの感情だって、きっと大して変わらない。
つらいなーとか、空気うめぇなーとか、小便したいなーとかw、宿に着いたら何食べようかなーとかを、ぶつぶつ言ったり思ったりしながら、目的地を目指していたはず。(さすがに昔の人のほうがもっと高尚かな?)
今回「古道」を歩いてみて、そんな今も昔も変わらないであろう人間の普遍的な部分に、なんだかすごく「ロマン」を感じた。(逆にいうと、人間自体はきっと大して成長してないw)
そして、もう一つ感じたこと。
「一歩一歩は小さくとも、歩みを止めずに進み続ければ、必ず目的地に辿り着く」
これは本来、山行が険しければ険しいほどに強く感じるものだと思うので、今回はそこまで感じなくても不思議はないのだけど、なぜかこのことも強く感じた。昔の人に想いを馳せたからかもしれない。
一歩一歩自分の足で山道を踏みしめながら、目的地を目指す。一つ山を越え、また一つ越えて、少しずつ目的地が近づいていく。
ものすごく当たり前のことを書いているけれど、これもやはり、今も昔もなんら変わらない「リアル」であり「普遍的」なこと。まだ自分の中でも消化中だが、文字にしてみて少し腑に落ちてきた。
普遍的なものには、きっとロマンがある。
古道を歩く、とはこういうことか。なんだか新鮮な気付きを得た気がする。
充実した旅でした。熊野古道、ありがとう。
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